専門職化によって形成される専門領域と非専門領域

石橋潔(2006)「専門職化によって形成される専門領域と非専門領域」『久留米大学文学部紀要. 情報社会学科編』2, 35-46

http://ci.nii.ac.jp/naid/110007176355

PDFあり

 CiNiiに割と詳しく抄録が載っているので、あえてここで詳しい論評はしなくても良いけれど、簡単に言って、何かの職業を専門職化しようとすれば、それ以外の何かが非専門職として位置づけられることを論じている。言い換えれば、何が専門職としての仕事なのかを規定することは、非専門職としての雑多な仕事や専門職に似つかわしくない仕事としてしか記述されない光の当たらない領域を規定していることにもなる。

 その後、どのように専門職は規定されてきたのかについて分かりやすく、かつシビアに論じている。特にケアの職種は特にその傾向が強く、対象者に対するトータルな関与を必要とする。しかし、そのトータルなものをトータルなまま受け止めることは専門職の確立が困難である。そこにジレンマがある。その後、権力論的専門職論などが紹介されている。また、近代以降の分業が進展した社会における生産物の対比から、対人サービスが、物財の生産と異なり、誰が生産し、誰がそれを消費するのかが明確ではないこと。個別性が強いこと。財の移転が見えにくいことなどを論じながら、対人サービスには具体的な値段がついていなく、こうした広範な交換のための信頼関係の確立を目指すことが必要であったと論じる。そのため、ウィレンスキーの古典的な専門職化論のプロセスを挙げて順に説明していく。

  1. 生計を支えるためのフルタイムの職業となる。
  2. 職能団体が職業的訓練のための教育機関の確立を目指す。
  3. 専門職能団体を形成する。
  4. 法的な保護を求める政治的活動を行う。
  5. 公的な倫理コードを作成する。

 このような手段を通じて、対人サービスを匿名的な関係の水準で再規定して、財としての信頼を確保する手段として考えることができるとされる。特に、2以下のプロセスが重要であり、大学での知識の体系化、職能団体の形成による専門職のアイデンティティの確立、政治的活動を通じての国家資格の創設、倫理コードの作成は、その職種の職業行為の標準化と固有性確立となる。その上で、対人サービスの信頼は、直接的な顔の見える関係から、匿名的な関係になることが重要である。この論文では情報の抽象性と具体性について詳しく論じている。そして、最後に専門職が、その専門領域に規定された業務に専念するためには、非専門領域をどのようにあつかうかが問題になること。非専門職領域を切り離すことで、専門職か図られるからである。それを医師と看護師の例で論じている。

特に医療空間が病院に移ってきた近代において、医療は入院した患者の生活全体を抱え込むことになる。医師が自分たちの専門領域を、主として患者の身体を客体として操作的に関与していくことにおいたとき、それ以外の要素を担ったのは、看護職である。また、看護職が今度は専門職しようとする際には、非専門領域を受け渡す看護補助者を必要としてきた。

 さらに、従来の専門職論では、これらのケアの職種が専門職化を十分に確立できない理由をその職業としての未熟さに求めることが多かった。しかし、隣接して専門職化が起こる現代の状況の中では、後発として専門職化する職種は、先発して専門職化した職種が専門領域としなかったものの中に、独自の専門領域を確立するという課題を突きつけられていると見なすことが重要である。さらに、匿名的水準での信頼を確立することが可能なものを見つけ、独自の専門領域を確立しなくてはならない。そして自らの専門領域と非専門領域を分割し、さらに形成された非専門領域を切り離していくことが必要であると結論づける。とはいえ、それはそういうものだと割り切ってだけではないところがこの論文の良いところである。最初にゲシュタルト心理学で有名な花瓶と向き合う二つの顔の「図と地」の話しで終わり、最後にまた一ひねりを加えた「図と地」が提示される。思わず考え込んでしまうなようである。

 社会福祉士の専門性とは何かと考えた場合、しばしば社会福祉自体の学問的未熟さとかそもそも社会福祉は専門性に馴染まないとか言われる。しかし、それを言うのは誰なのか。たぶん、その比較として先発して専門職化された看護や医師なのであろう。またケアの職業においても、医師→看護師→看護補助者という流れであるが、社会福祉施設においては、介護福祉士→ヘルパー1級・2級→無資格者という階層がある。また分業スタイルとしても相談員・介護員という区分もある。ただそれがより専門職化するには、相談員は介護をしない、調整や計画などにのみ関わり、他は介護員が行うとか、自分自身の専門職化を図るためには、より明確な線引きが必要になるといえる。

 いずれにしろ、専門性とは何かを考える上では基礎論文となりうる内容であり、私の昔の論文でも引用させてもらった。必読の論文である。

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