介護保険制度の12年・その主要な改革と変容(上・下)

石橋敏郎・今任啓治(2012・2013)「介護保険制度の12年・その主要な改革と変容(上・下)」『アドミニストレーション』19(1),19(2),62-88,22-40,熊本県立大学
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009555428

http://ci.nii.ac.jp/naid/110009555435

PDFあり
 これまでの介護保険制度を総括している力作である。論点は多様にあるけれど、要するに介護保険は保険法であり、それは金銭給付法である。なのに、地域包括ケアシステムとかそうしたシステムを盛り込んだりするのは法律上おかしいだろう。あるいは、普遍原理で応益負担を原則にしているのに、補足給付で低所得者に減免を盛り込んでいる時点で、保険でもなく、それは社会福祉行政だろうと。なのに、公的責任が後退していて、かと思えば権限が強くなったりと矛盾だらけで破たんしていないか?という問題意識である。
 なにしろ40ページを超える内容で、法律についてもかなり深いところまで解釈をしているので普段法律を読んでいない私としては骨が折れる作業であったが、読み込むとこれはかなり勉強になる内容である。といっても、資格取得とかレポートを書くための資料としてはまったく使えないが。
 (上)の方は、途中から特別養護老人ホームの多床室とかユニットケアについて多くのページが割かれており、補足給付についてかなり批判的な内容となっている。なぜ入所する時に世帯分離をするのか。低所得者がほとんどなのに、なぜ費用徴収で食費と居住費が全額負担なのか。いまや施設側での選択、逆選択になっている現状などをこれでもかと執拗に描いている。後半は、介護予防・日常生活支援総合事業への批判。決定権がなぜか利用者ではなく、最終的には包括や市町村がサービスを決定するという事で、措置時代に回帰していることを指弾している。
 私も同感だと思うのが、小括で書いている、あくまでも介護保険は、要介護という生活事故に遭遇したものに、事後的に自立支援のための給付を行う制度であり、要介護状態という事故が発生していないのに、介護保険財源から予防のための給付を行う(たとえば、地域支援事業は介護保険財源の3%内の予算で行われる)ことについて、すっきりした説明を行うのは難しい事。補足給付も低所得者に対する援助であるため、介護保険制度がカバーすべき範疇ではない。そうした範疇にはない、福祉行政はちゃんと切り離したうえで、公的責任において施行する。それが本来の高齢者福祉ではないかと思う。
 (下)では、地域包括ケアシステムについての批判的な検討だった。その上、精緻に制度での決定事項についての賛否両論併記の箇所まで記述しており、また市町村の介護保険事業計画では、サービス供給量予測計画を努力義務にしたことに触れ、確かに悪い事ではないが、介護保険法では、市町村は利用者の支払った介護費用の支払い分を後で償還払いする義務を負っているにすぎないのに、こうした供給量の予測計画まで義務付けられるのはおかしいし、根拠法として介護保険法なのか?という論点で指摘している。
 いずれにしろ、介護保険の法的仕組みや矛盾点をしっかりと書くとこうなりますよという見本のような論文で、介護保険についてある程度知っている人ならばじっくりと読んでみてほしい内容である。

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