村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』論

山崎眞紀子(2009)「村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』論」『札幌大学総合論叢』27,176-151

http://ci.nii.ac.jp/naid/110007564609

PDFあり

 副題は、火曜日の女から金曜日の女へ となっている。

 この論文は、主人公である岡田亨ではなく、その妻、久美子の自己成長を軸に論じられている。そして、火曜日に事の発端が起こり、金曜日に久美子が自分を取り戻すために行き直すことを決心するという意味である。

 この論文では、「新潮」で掲載されたものと、単行本化された後に消された文言の比較や村上春樹へのインタビューをほどよく挿入し、論文を立体的に構成している。この小説は、久美子が突然主人公から姿をくらますことからスタートし、主人公が妻を取り戻すために、無意識の世界や歴史的な過去をさかのぼったりとするきわめて幻想的な小説である。そして久美子は、久美子の兄によって人間的に何か損なわれるようなことをされたこと。その兄は人を汚染することにかけて非常に長けていること。それは一種のカリスマとも言え、主人公はそれとは別の人を癒す能力を身につけていこうとする物語である。

 久美子はそうした主人公と兄との間にあり、主人公との出会いの中で自分を取り戻そうとする。それは、主人公とともに「何かと関わり合っていく」という意志を自己のエンパワーメントのために振り向け、自らの力で解決しようとし、責任もきちんと引き受ける女性像を描き出した内容となっている。

 あくまでも小説のテクストを追って記述しており、文学論にありがちな精神分析や哲学の引用も少なく、正統的な作りとなっており、じっくりと読める内容となっている。「ねじまき鳥クロニクル」が面白かったと思った方や文学論に興味のある方や一読の価値があるかと思う。


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