人身取引研究の展開と課題

大野聖良(2010)「人身取引研究の展開と課題ジェンダー研究」『 お茶の水女子大学ジェンダー研究センター年報』13, 29-43

http://ci.nii.ac.jp/naid/120002907109

PDFあり
 一般に人身売買と言っても、それはいわゆる性産業へ売られる少女達ということだけではなく、強制労働や臓器摘出目的など男性の被害者も該当する問題である。しかし、やはり主眼は、女性や子どもの性的搾取目的の形態に焦点が置かれてきている。

 また人身売買は、単に摘発し、加害者を罰し、被害者を帰国させるなどですむ話ではなく、その背景にある構造や権力関係にも着目しないといけないが、それが国家間にもおよびその根はかなり深いことを認識に置く必要がある。さらにその人身売買が、誘拐とか経済的強制などの違法行為によるものか、当事者の形式的であっても同意に基づく、一時的な個人の性的使用権に基づくのかによって、人身売買の意識が違う。売買春の問題は、現代の奴隷制なのかセックスワークなのかと言う二項列の問題からはみ出して議論されている。

 例え売春が、身体の性的使用権であるとして、売春を正当化しても、それは臓器も同様であり、身体をお金に替える行為であり、その使用権は個人に帰する正当性が成立してしまう。一般に売春と臓器摘出の人身売買は同じように考えられないが、身体の使用権という項目で括るとそうした議論もあると言うことである。

 本論は、様々な代表的な立場から人身取引について論じられており、論の展開としても申し分ない内容である。売春は産業として認めて、その女性の人権の向上や権利擁護を謳うべきか、それともやはり廃絶にするか。権利擁護という現実主義を取れば、逆にそれでも現実に起こっている人身取引の実際の被害は言及されにくくなってしまう危険性もある。

 最近2000年以降は、売春論とは別に移動の中に観る人身売買の仕組みや国家や仲介業者の人権侵害に焦点を当てた構造論が注目されていることを紹介している。この移動のメカニズムを通じて、人身売買の権力構造を客観的に分析し、搾取するアクターを可視化することで、移動の制度上の問題を明らかにしようとしていることを紹介している。

 売春や人身取引、あるいは労働搾取などに興味のある方にとっては、広く考える上で良い論文だと思う。

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