認知症関連1

 参考にした文献は15本。

 これらの共通するのは、認知症をどう理解するかである。そして、心理学的に認知症の人を把握するものと介助者側の認識のあり方に分かれる。当然これらは地続きであり、認知症の心理をよりよく知ることによって介助者側の行為の落としどころが得られるわけである。認知症今回は前者の心理学的把握についてとりあえず挙げておく。


 認知症の心理学的把握は、主に語りによって分析されており、一つはナラティブ、もう一つが回想法である。ナラティブ分析では野村上田の研究がある。

 野村はかなり綿密にナラティブ分析の枠組みを設定しており、一人の女性高齢者の語りからライフストーリーを掘り起し、時間的一貫性、因果的一貫性、主題的一貫性、状況的一貫性と枠組みを再構成してその人の語りの多面性を浮き彫りにしている。こうした分析の帰結がその高齢者の生の有意味性を明らかにすることであるとする主張は正鵠を得ている。読む人を選ぶがナラティブの手法を学ぶ上では優れた研究である。

 上田は、入所時に76年間の過去歴がない状態で入ってきた女性高齢者の過去を親戚から行動観察までを含めて過去を掘り起し、その人を理解しようとした内容である。問題行動の裏にはそれなりの理由がある。それを過去から学び、知ることの重要性を分析によって明らかにしている。実質8ページで非常に読みやすい内容となっている。


 回想法に関しては、森園西川田高らが研究している。

 森園は厳密には回想法というよりも過去を語る回数や内容に着目した研究である。因子分析からt検定まで統計手法に関してはからっきしなので結論から言えば、否定的過去も肯定的過去も語る頻度に差は見られなかったこと。また過去をポジティブに捉えている人は過去のことをあまり語らないという傾向がある。逆に否定的なことを語って受容されることで今をポジティブに生きているという結果などが示されていた。

 田高らは認知症高齢者の回想法の意義について海外文献を通じて検討している。海外の研究動向がこうした日本語で一覧として読めるのは実に地道な作業でありその意味で労作である。一概に回想法といっても多様なアプローチや支店があるものでそうした意味でもテキストでは学べない回想法の俯瞰図となっている。

 西川は田高が海外の回想法の文献レビューであるのに対し、回想法とは何かを概説した内容となっている。回想法の成立から意味、意義、高齢者とケアそして回想法の有効性などを論述しており、一つの読み物として良い内容である。特に福祉職にとって点数とか業務とは別に、高齢者の回想、あるいは認知症が時折語る言葉や物語に耳を傾けることで利用者の主体性や個性、そして生きてきたことへのまなざしを得ることが出来ること等を論じている。特に認知症は言語によるコミュニケーションが喪失しており、時々登場するキーワードに耳を傾け話を広げることはその人にとって貴重な生活支援になる。


 その他、近いところでは山根が認知症が話す内容や発話や発話を埋める「え~」とか「あ~」といった発声の頻度を調べた面白研究をしている。こうした会話分析はメディア関係で行われるが、山根は言語分析から認知症の評価を単なる知能検査や筆記検査ではとらえきれないものがあるのではないかという仮説の下で行っている。先行研究のレビューもしっかりしており参考になる。こうした言語分析にはある一定の基礎知識、接続語やフィラーなどの理解が必要であるが、知能検査や筆記テストで物怖じする対象に対し、言葉や会話のレベルに応じて、どの程度の認知症なのかあるいは脳血管なのかアルツハイマーなのかと仮説を立てることが出来る。もちろん、言語分析はきっかけに過ぎず多面的にテストをする必要があるのは言うまでもない。

 より広範に心理的なアプローチを概説しているのが上原である。障害の把握からアセスメントシートの作成、心理劇のプログラムシートなど一連の心理的アプローチを実際を基に紹介している。心理学的グループワークの見本のような内容である。思うに、その人を理解しようとすること笑顔を引き出そうとすること。そうした行為の中にある限り、その人が増悪することはあまりないということだろうか。

 また山戸は最近提唱されているパーソンセンタードケアについて簡単に紹介している。そのうえで、介護実習とか介護教育では必ずしもこの考えに立脚した取り組みがされた施設で実習するとは限らないこと。しかし、こうした理念を伝えることで見方を知る重要性を提起している。ところで副題にあった心理学の視点とは、このアプローチが間断なく持続的に行われることで(利用者:認知症の高齢者の)心理的ニーズが満たされ始めるという一節にあるようである。


 心理学的な所見では長谷川式などある一定のスケール(枠組み・評価枠)があるし、医学の進歩でどの程度の認知症なのかの判断も出来る。しかし、認知症の行動や心理面には多様性があり、また日常生活での出来る・出来ないのレベルも違う。その意味で、山根の言語分析はある意味日常に根ざした評価枠であり興味のあることである。

 研究の方向として、現代の流行はナラティブであるが、本来ナラティブは語られない別の物語を掘り起こして、前向きに生きる言葉を見つけることである。その意味で認知症の後期高齢者にとって有効な援助スキルなのか…むしろ回想法と行動分析による問題行動の減少などを主眼とした取り組みが必要な気がする。


野村と田高は有料PDF。他な無料PDF。


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救護施設→知的障害児施設→通所介護施設(高齢者)と15年以上。これからも思考と体力で、働いていきます。

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