介護事故・虐待関係

 参考にした文献は7本。

 虐待に限らず、広義にはその人の尊厳や人権が守られるとは何か。在宅で暮らすとは、施設に入るとはといったその人の存在意義にかかわる問いかけがも含まれると考える。それは、高齢者に限らず、貧困、障碍者、児童問わず、より普遍的には健常者であっても「その人らしく生きることとは何か」といった社会学・哲学的な問いを含意する必要がある。中でも虐待や人権・尊厳として問う内容として一応セレクトした。


 介護事故に関する論文は永和が調査している。もともと外部にどのくらいの介護事故があるのかが不明であり、漏れることがあまりない。また極端に件数が少ないのはそもそも厚労省が明確な基準や範囲、報告の手順がなんらとられていないという国の怠慢に起因するとする視点で、情報公開制度を利用して筆者が松山市の介護事故報告書537件を対象に事故の分類や分析を行っている。とにかく詳しく調査されており、事故の分類も過失事故(介護ミス)、介護の基本知識と技術に欠如、注意義務違反に問われる死亡事故、安全保持の基本や危機回避措置を怠った事故と指弾されている。介護現場で働く人たちは、そこから学ぶべきことが多い内容となっている。


 高齢者虐待に関しては、結城らが文献研究として大まかに研究の方向性について調査している。ここでだいたいの流れを読むことが出来、丁寧に参考文献が多数のせられているのでこれを起点にしていけばよいと考える。とはいえ、高齢者虐待は介入することが難しく実態把握はまだ尾がついたばかりであること。そのため危機介入のシステムや支援の具体的な理論化は出来ていない。実践の積み上げと考察・分析の重要性を訴えている。

 高齢者福祉施設での虐待について、大井川が二つの判例を基に考察をしている。どちらかといえば、虐待事案を内部告白したり、虐待防止の取り組みを推進していたら邪魔者扱いを受けて論旨解雇されたという組織的な圧力や虐待を生み出す構造について分析している。よくよく読んでいくと虐待などの不法行為をどのように告発していくか。あるいは組織内葛藤や通告・通報者の孤立、組織風土への提言などが含まれている。これは労働問題にも応用できそうである。

 逆に利用者から介護者が暴力を受けている事についての調査として中野らがいる。このような利用者からの暴力は介護員にとってかなりのストレスとなることを明らかにしている。この手は看護ではセクハラやパワハラなどとしての研究の蓄積がある。しかし介護では暴力を振るわれるのは職員側のせいであるとする見方が強く十分にされていない。暴言、暴力、性的発言、性的行為など利用者の疾病に起因しているのではとか、個人的要因として自分の中での問題として内包していることが明らかになっている。


 虐待等ではないが、施設の持つ管理性による権利侵害や権利尊重が損なわれている事の考察は、田川がしている。または在宅生活での知らず知らずのうちに高齢者の人権が損なわれていることについて羽入が論考している。ともにかなりの労作で、非常に参考になる論文である。田川は87時間の参与観察を通じて意思を表明できる高齢者に対して集団的な流れの中でその意思を十分にかなえることが難しい介護施設の現状を明らかにしている。利用者からと職員からのインタビューと客観的な整理で非常に読みやすく、一考に値する。羽入は、自分が在宅介護支援センターでの勤務で得た事例2例を引き合いに、家族も福祉関係者もその利用者の尊厳や自己決定権をないがしろにしていることを考察している。とにかく詳細なケース記録の記述に唸る内容である。行政のたらいまわし、家族の関心を装った無関心考えることが多い内容である。


 その他介護殺人を行った人の動機や加害者の特徴などの判例や新聞、警視庁の統計などを効果的に配置して介護殺人の実態を論述したのが湯原である。確かに介護者による殺人は罪ではあるが、中には被介護者が殺して、死にたいと毎日繰り返す中で介護者が追い詰められたケースもあり細やかに行えば行うほど介護者も被介護者も追いつめられるという現状を明らかにしている。とにかく判例が整理されているが非常に重たい内容である。その一方で、介護者が事件を思いとどまらせることが出来た理由などもまとめており、希望のある内容ともなっている。ちゃんと読むと、ちょっとジ~ンとくる内容である。


 総じて、虐待や介護殺人の調査はプライバシーの問題もありなかなか進まないのが実態のようである。それでもこうしたなぜ虐待が起きるのか、あるいは介護殺人が起こるのかの研究は人の根源に関わるだけにより深められるべきである。

 研究の方向性としては、湯原や田川のような実態を照らし出す研究が推し進められることで蓄積されていくことが大事で、まだまだ資料が足りないのが現状である。


大井川、羽入はPDFなし。他は無料PDFあり




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