介護労働関係

  参考文献: 10本:参考文献は一番下に明記

労働条件が過酷であることや離職率が高いことなどを問題視したテーマの論文を中心にまとめた。

今更ながらいうことはないが、介護従事者の離職率の高さや定着率の低さは他の全産業の中でもとりわけ顕著である。どうしてそうなのか。最大の理由は賃金の問題であるが、雇用条件を整え、労働環境を整えることが重要であるという視点ではほぼ共通している。


瀧澤は、どのような法的に規定されているのかを大まかにレビューしている。どれも事業者の努力義務にとどまっていて労働基準違反や労働環境を整えることの強制力にはまったくなっていないことを指摘している。法令と関連して介護処遇改善交付金にからんでの人材確保について川瀬が詳解している。交付金の目的・申請手順や配分など詳しく論じており、それに併せて交付金の意図、職場環境の改善などについてさわり程度に論じ、交付金は一時的なカンフル剤にしかならないことを明らかにしている。


植北は、人材が集まらない原因について、労使間での地位や労働契約の理解が不足していることや経営状況や労働の内実が不透明であることなどを指摘している。また異職業からの転入者のミスマッチがあったりと教育の重要性を訴えている。そうした介護分野での労働市場を広くレビューしているのが下山である。下山は介護分野が市場化したことにより運営から利益を生み出さないといけない経営に変わり、利益を生み出すためには人件費を削減しないといけないとする力学が働いていることを前提に問題提起している。そもそも福祉を求職する人たちはやりがいを持った仕事をしたいとするイメージでできれば正規雇用されたいと思っている。しかし、言い換えれば、やりがいだけではなく、ある程度食べていけるだけの賃金を得たいとする意識が強いと言うことである。しかし、経営側は人件費抑制のためには正規雇用よりもパート雇用を求める傾向がありそこにミスマッチが生じていること。また、職種(相談員・介護員など)や職場形態(入所・通所など)、時間帯などに経営者側と求職者側ではミスマッチがあることを調査で明らかにしている。福祉労働市場を半閉鎖的職種別労働市場、不完全な専門職労働市場を位置づけており示唆の富む内容となっている。


別系統では介護労働の内実の一つ「感情労働」を焦点にして論じているものがある。これは専門職性やケアリングとも結びつく内容である。感情労働とは笑顔や共感的態度、傾聴など「感情」を商品として顧客(利用者)へ提示する労働である。特に介護は利用者と長期的に関わることから労働者(介護従事者)はより感情を管理する必要がある。長谷川はこの介護援助の中にある感情労働とは何かを詳しくレビューしている。

ちなみに感情労働に関する学問は、ポストフォーディズムの観点からスチュワーデス・ナースなどが良く引き合いに出されている。その意味で、介護分野について言及している長谷川論文は貴重である。感情労働におけるストレス(乖離する自分の本当の感情と職業上管理される感情のジレンマ)から、役割葛藤や職務における情緒的緊張などもバーンアウト(燃え尽き症候群)の一因となることは佐藤が明らかにしている。

また感情労働に関する別の切り口として、松川が現代の労働形態がまさにポストフォーディズムであり、その潮流の中でもっとも分かりやすい形で労働形態として機能しているのがホームヘルプサービスであることを取りあえげて論じている。長谷川が感情労働の中にある表層・深層、規則などのシステムを明らかにし、むしろよりよく働くには介護とは感情労働であることを位置づける重要性を提示している。しかし、松川は感情労働とは賃金の評価にしにくい無償面があること。そして、介護を女性の仕事として位置づけ、低賃金にしていることなどを批判している。「ヒューマンサービス職の中でも「愛情」が強調されやすいケア職(看護師、教員、ソーシャルワーカーなど)では職務における感情管理の過重な負担が原因となって、いわゆる燃え尽き症候群を示す者も少なくない」(松川:P.149)とする指摘は重い。

松川は感情労働に重きを置いた内容であったが、ポストフォーディズムのもう一つの側面である、労働の流動化、結果としての非正規雇用の拡大傾向について、高松が介護だけではなく全産業にも当てはまることを論じている。こちらは介護保険分野だけではなく、救護施設や知的・身体障害者施設まで含めた従事者数や年収などを厚労省の調査を元に幅広く論じている。


その他、業務分析(一日の業務内容やスケジュールなど)から介護職はどのような仕事内容なのか。なにが困難なのかについて明らかにしている先行研究もある。今岡らは夜勤、残業の現状について、少ない人員配置や多すぎる夜勤の回数、長時間労働やサービス残業の実態を調査している。その結果介護従事者の肉体的心理的過重が積み重なりやすいこと。それが離職へ促されていくことを提示している。中でも、夜勤の単独対応が心理的なかなりのプレッシャーになり、それがひいては施設内虐待の要因になりうることを問題提起している。

小坂らは、今岡らと同時期に論文を出し、ほぼ共同研究という位置づけで、このような過酷な労働環境であっても継続し続ける要件とは何かについて明らかにしている。こちらは夜勤とか残業に特化せず、幅広くスケジュールや業務一般についての調査を行っている。またそこで働く介護員の声などを拾っている。業務の中でも特に入浴が労働負担として過重な傾向にあり、継続するには従事者自身が主体的に動けるようになったと思えることだと結論づけている。そこで継続的なキャリア形成が必要であることを提示している。


このように介護労働に関する論文を大まかにレビューしてみたが、まずもって必要なのは賃金の改善、労働時間の短縮、身分の保障である。その上で、労働者は燃え尽きるのか。そして、どうしたら継続して働き続けることが出来るのか。社会的見地と心理的な見地からの理解が必要であると言える。

この分野の研究の展望として、社会的な側面では経営論、施設論などから賃金がなぜ低く抑えられているのかの分析と労働者側への利益配分の方策、あるいは、労働環境の改善のための手だてを具体的に模索する方法。あるいは改善を実践している事業所の取り組みへの調査など。また、心理的にはより詳解な業務分析や感情労働のシステムを明らかにしてバーンアウトの要因をより探り当てること。または継続条件を探すことなどが挙げられそうである。


3の下山はPDFなし。6の佐藤らはPDFがあるが有料。他は全てPDFあり。題名をクリックすればCiNiiに飛ぶことが出来る。

  1. 瀧澤仁唱(2011)「介護労働者の労働条件をめぐる法的課題」『桃山法学』17,29-58
  2. 植北康嗣(2010)「介護労働環境整備と離職率の関係についての一考察」『四條畷学園短期大学紀要』43, 34-40
  3. 下山昭夫(2005)「福祉労働市場における求職者の意識と動向」『総合福祉研究』10,20-39,淑徳大学
  4. 松川誠一(2005)「介護サービスの商品化とホームヘルプ職の労働過程」『東京学芸大学紀要3部門』56,139-153
  5. 長谷川美貴子(2008)「介護援助行為における感情労働の問題」『淑徳短期大学研究紀要』47,117-134
  6. 佐藤ゆかり・澁谷久美・中嶋和夫・香川幸次郎(2003)「介護福祉士における離職意向と役割ストレスに関する検討」『社会福祉学』44(1),67-77
  7. 高松智画(2009)「介護労働者の現状と課題」龍谷大学社会学部紀要』34, 19-30
  8. 小坂淳子・今岡洋二・杉原久仁子・藤原和美(2008)「介護労働の実態とその継続条件を考える」『創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要』7, 111-123,
  9. 今岡洋二・杉原久仁子・藤原和美・小坂淳子(2008)「高齢者介護施設における夜勤、残業の現状と課題」『創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要』7, 133-142
  10. 川瀬善美(2009)「介護職員不足問題と「介護職員等処遇改善交付金」」『白鳳大学教育学部論集』3(2),285-325
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救護施設→知的障害児施設→通所介護施設(高齢者)と15年以上。これからも思考と体力で、働いていきます。

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