認知症ケアにおける介護職員の暗黙知による判断の分析(1)

鈴木俊文(2009)「認知症ケアにおける介護職員の暗黙知による判断の分析(1)」『研究紀要 』23, 33-44, 静岡県立大学短期大学部


http://ci.nii.ac.jp/naid/110007589330


PDFあり


 暗黙知は、マイケルポラニーが提唱した概念で、いわゆる目に見えない智恵のようなものが人間には内在していて、それが人類の英知を支えているとする。分かりやすく言えば、「何となく」とか言葉で表現するのが難しいけれど、「まぁ、そういうこと」という伝達が難しい知識である。自転車に乗ることも、人に教えるのは難しく、何となくできてしまうこと。でも乗るにはそれなりに技術とコツが必要。この表現が難しいコツとか技術が暗黙知である。


 暗黙知は、臨床の知とか経験知、あるいは実践知などと呼ばれていて、この論文は介護職員がどのような暗黙知を使って認知症にケアをしているのかをインタビュー形式でまとめている。認知症は、いわゆる個別的な症例を示し、形式的なコミュニケーションではケアが難しいことがある。ひとりひとりの介護員がどのような思考で、言語や動作を表出しているのか。その内実を明らかにすることで、認知症ケアの深みを知ろうとしている。


 この論文のレビューは暗黙知についての知識がないと難しい内容であるし、レビューもやや堅い印象があるものの、良くまとめられている。反省的実践などにも言及しており前提は良く踏まえていると思う。また、ナレッジマネジメントへ着眼しているのも、今後の研究の方向性としても正しいと思う。ただ、ナレッジマネジメントは、ベテランから新人教育や技術の伝承をめざすものであるから、本論はそこまで踏み込んではいない。また、ベテランの思考~暗黙知がどのように形成されたかの具体性が示されていない。これらは今後の課題でも触れていたが、インタビュー形式からより深められるのではないかと思われる。その場合、ベナーなどの職業的発達過程なども知見に含められるのではないかと思われる。


  一施設職員としてこの論文を読んでみると、ベテラン職員がどのような思考でケアに当たっているのかがよく分かる内容である。特に、流れを意識することや気配りへの視点など示唆に富む内容である。この論文に出てくるのは1人の介護員なので判断がつきにくいが、それでもたぶんベテランはこうして考えて、何となく体が動いているんだろうなぁと推測される内容である。また、暗黙知の限界~なんとなく~という部分も良く表現されており、読み手とはしては納得させる内容であった。「余計な仕事」でも必要ではない仕事の中に、ベテランとしての根拠があるんだろうと思う。


 どうして気を配ることが良いことなのか。どうしてそんなことをするのか。そして、それをすることがどうして良いと言えるのか。業務で決められたことだけを機械的にこなしても誰も非難しない。個別性と言っても、計画に沿った差異で良いはずなのに、このベテランの捉える個別性は、別の次元にある。そこにケアと言うことがあるのは分かるが、それを説明することもまた難しい。ケアという上位概念もまた暗黙知の中に豊かにあることを予見させる内容である。



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救護施設→知的障害児施設→通所介護施設(高齢者)と15年以上。これからも思考と体力で、働いていきます。

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