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わが国のアルコール依存症者支援における連携について ―展開過程・促進要因・阻害要因の検討:若林真衣子

若林真衣子(2020)「わが国のアルコール依存症者支援における連携について ―展開過程・促進要因・阻害要因の検討―」『東京通信大学紀要』2,105-117


社会福祉の分野ではあまり注目されていない,アルコール依存への対応.そもそも依存症は非常に扱いが難しく,かつアルコールの場合は否認の病とも言われ,自覚症状も無く,また自分は病気では無いと思っている場合が多い.そうした人達をどう回復させ,そしてまた社会復帰させるのか.そのシステムはほとんど零細のNPOなどに委ねたれていたり,当事者団体でどうにかこうにかやっているというのが実情だと思う.

若林先生は,こうしたアルコール依存のサポートについて精力的に論文を書いていて,CiNiiでもいくつか読むことができ,とりあえず一番新しいモノであったので紹介.

この論文は,アルコール依存の支援ネットワークを類型化して整理したもの.たぶん関わったことの無い人にはなるほどね~と思わせてくれる内容となっていて,私自身も初めて知った.連携の類型には,

  • 大坂方式と瀬田型方式,三重モデルがあるという.さらに
  • 商店型とデパート型があるという.

この他,連携する上での阻害要因と促進要因についても整理しており,てんこ盛りの内容となっているが,それだけ最近までの動向を調べ尽くした内容となっている.ただし,精神科病院が主体になるにしても,本人の病識が薄い場合は,再発の危険性は高いし,そもそも入院治療に乗ってこない病気でもある.また,当事者団体で断酒会を継続していても,社会的排除の状態にあるとかほかの要因などが複雑に絡んだ困難事例が増加する中,プログラムの限界もささやかれている.また当事者団体の経営が難しく,スタッフが低賃金であるなど課題もある.

この論文は,あくまでもあらゆる関係機関がよい連携をすることがアルコール依存の患者にとって必要であるという視点で書かれているが,その機関の置かれている状況は厳しい面もあることを忘れてはいけないと思う.


連携のあり方については,以下の論文が非常に分かりやすく,この論文でも度々引用されている.


栄セツコ(2010)「精神科ソーシャルワーカーの精神保健福祉実践活動--連携に着目して 「連携」の関連要因に関する一考察--精神障害者退院促進支援事業をもとに」『桃山学院大学総合研究所紀要』35(3),53-74


アルコール依存などの施設の運営の困難さについては,以下の論文が詳しい.特に,インタビューに基づいたカテドリーの整理は労作.ホント,こうした困難に関わり,支援する人達には頭が下がる思いである.ちなみに松下年子先生はCiNiiで検索すると,アルコール依存とかアディクション系の論文をたくさん書いている.


松下年子(2019)「アルコール・薬物依存症のリハビリテーション施設の運営の困難と課題」『アディクション看護』16(2),38−54

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共に生きる社会を目指す~「浦河べてるの家」の実践を通して:向谷地生良

向谷地生良(2020)「共に生きる社会を目指す ~「浦河べてるの家」の実践を通して」『ルーテル学院研究紀要』53,1-8


これは講演録で,2019年,ルーテル学院大学で行われたもの.向谷地さんは精神保健福祉界隈では知らない人はいないはず.精神障害者への支援についてまさにパラダイムシフトをもたらした変革者.当事者主権や利用者主体などいまでは市民権を得ていることが,向谷地さんがやろうとしていたときにはほぼ無かったといっても良いかと思う.

この講演録は,そうした当事者主体の実践に至るまでのアレコレを優しい口調で述べられている.私自身は,折に触れて〈べてるの家〉の実践とか設立に至るまでの経緯などは読んでいたので取り立てて新しいことはそこには無かった.また,向谷地さんがルーテル学院大学とどう関係するかも述べられているが,そこにはあまり興味は無かった.

それでもいくつかのよい言葉がそこに添えられていて,


一つが,変革は,弱いところ,小さいところ,遠いところからということ.

人の相談に乗る仕事をするためには,人に相談する経験が大事だと言うこと


その他,「対話は他人と同じ考え,同じ気持ちになるために試みられる物では無い.わかり得ない,わかり合えない,伝わらないというこのもどかしさ,[…中略…]このお互いのモド歌詞をお互いに開いたときに,私たちにともに助け合える,そこに対話が始まる(8ページ)」

語り口は柔らかく,そして人々に行動することの勇気を与えてくれる内容になっている.

介護殺人事件から見出せる介護者支援の必要性:湯原悦子

湯原悦子(2016)「介護殺人事件から見出せる介護者支援の必要性」『日本福祉大学社会福祉論集』,134,9-30


介護者によって被介護者が殺される事件を介護殺人と言うが,この先生はこの手の研究を立て続けにしている第一人者と言って良いかと思う.

論文の構成は前半は新聞から介護殺人が年間どの程度あるのかを1988年から2015年までを提示.介護保険制度はでき,高齢者虐待に関する法律もでき,通報義務や地域包括支援センターによる取り組みと仕組みができていてもなお一定の殺人の件数の推移となっている.被害者は女性が多く加害者は男性,その中でも息子と夫がだいたい半々となっている.

そして後半は三つの事件についての事例研究.介護殺人の判例を警察の調書,公判記録,弁解録調書,被告人の日記,公判傍聴と総合的に資料をとりまとめ,〈事件の概要〉,〈事件に至るプロセスと被告の心情〉,〈第三者による事件防止の可能性〉に整理して論述している.かなりよく整理され,読み応えもあるし,事件に至るまでのプロセスは考えさせられるばかり.

どれもこれもあり得る状態でありながらも,事件に至るまでの状況はほぼ極限状態であり,人は多分簡単に極限状態になり得ることに戦慄した.そして,虐待が疑われる状態はどの事例でもそのサインは出ており,それをいかに吸い上げるのか.介入すべきところで見て見ぬふりをすることの危険性を教えてくれる.


この他にも,介護殺人事件の総論的な考察は以下の論文が分かりやすい.


湯原悦子(2015)「日本における介護に関わる要因が背景に見られる高齢者の心中や殺人に関する研究の動向」『日本福祉大学社会福祉論集』132,31-51


さらにこの総論の元ネタになっているものが,


湯原悦子(2011)「介護殺人の現状から見出せる介護者支援の課題」『日本福祉大学社会福祉論集』125,41-65

2020年9月論文リスト

CiNii 論文 - 障害福祉分野におけるコミュニティ・ソーシャルワークに関する考察 : 障害者総合支援法を題材に https://ci.nii.ac.jp/naid/120005342982
CiNii 論文 - 身体障害者福祉法から障害者総合支援法へ https://ci.nii.ac.jp/naid/120006870040
CiNii 論文 - 日本における障害福祉サービスの利用抑制に関する研究 : 障害福祉サービスの支給決定プロセスを中心に https://ci.nii.ac.jp/naid/110009752173
CiNii 論文 - 知的障害者のひきこもり状態の実態と課題 : 事業所を対象にした質問紙調査の分析を中心として https://ci.nii.ac.jp/naid/110010037805
CiNii 論文 - 障害者総合支援法の評価 : 総合福祉部会の骨格提言との比較を中心に https://ci.nii.ac.jp/naid/120006640840
CiNii 論文 - 障害者総合支援法における「法定代理受領」をめぐる法律関係 https://ci.nii.ac.jp/naid/120005950331
CiNii 論文 - 障害者福祉制度は障害者家族の親子関係をどのように変えたのか――障害者総合支援法制度利用状況の分析から―― https://ci.nii.ac.jp/naid/130007397668
CiNii 論文 - 高齢精神障害者の地域生活支援の現状と課題 : ソーシャルワーカーへのインタビュー調査の結果から https://ci.nii.ac.jp/naid/120006342810
CiNii 論文 - 知的障害者の日常生活に対する「意思決定支援」の制度化 : 議論の推移と推進派の主張 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006682893
CiNii 論文 - 障害者総合支援法における附帯決議の影響 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006845532
CiNii 論文 - 「Y問題」の歴史 : PSWの倫理の糧にされていく過程 https://ci.nii.ac.jp/naid/110009595834
CiNii 論文 - Y問題の歴史再考 : 学問基盤による視座の相違に着目して https://ci.nii.ac.jp/naid/120006871792
CiNii 論文 - 「地域共生社会」の実現とコミュニティソーシャルワークの役割 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006877729
CiNii 論文 - 生活支援体制整備事業における地域福祉の推進に関する一考察 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006764305
CiNii 論文 - 介護保険制度改正に伴う,自立支援・重度化防止に向けた取り組みに関する研究(1) https://ci.nii.ac.jp/naid/120006603471
CiNii 論文 - 地域共生社会と自立した地域づくり https://ci.nii.ac.jp/naid/120006824451
CiNii 論文 - 福祉現場における介護人材不足の背景 https://ci.nii.ac.jp/naid/110008087624
CiNii 論文 - ストレングスモデルにおけるリカバリー概念の批判的検討 https://ci.nii.ac.jp/naid/120005770983
CiNii 論文 - 精神保健福祉分野のエンパワーメント・アプローチに関する考察 https://ci.nii.ac.jp/naid/110006603038
CiNii 論文 - 認知症介護は困難か──介護職員の行う感情労働に焦点をあてて── https://ci.nii.ac.jp/naid/120005417335
CiNii 論文 - わが国のアルコール依存症者支援における連携について ―展開過程・促進要因・阻害要因の検討― https://ci.nii.ac.jp/naid/120006872717
CiNii 論文 - クリティカル・ソーシャルワークの理論としての位置づけと教育方法 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006875571
CiNii 論文 - 「地域共生社会」の実現とコミュニティソーシャルワークの役割 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006877729
CiNii 論文 - スピリチュアリティに配慮した精神科ソーシャルワーク実践に関する考察 https://ci.nii.ac.jp/naid/120006877731
CiNii 博士論文 - 障害基礎年金制度の成立プロセスを探る : 当事者運動と年金改革の接点 https://ci.nii.ac.jp/naid/500001336705
CiNii 論文 - 身体障害者を取り巻く制度とその問題点 (特集 「豊かさ」のパラダイムシフト) https://ci.nii.ac.jp/naid/120006530714
CiNii 論文 - 障害福祉制度における潜在能力アプローチの適用についての考察--DworkinとSenへの考察を軸にして https://ci.nii.ac.jp/naid/120005297843
CiNii 論文 - 福祉多元主義モデルの下での福祉サービスの供給体制のあり方についての考察 https://ci.nii.ac.jp/naid/110007544546
CiNii 論文 - 生活保護に代わる所得保障制度を実現しようとした試みとその意義についての一考察 : 障害基礎年金の成立過程で障害者団体と研究者は何を主張したのか https://ci.nii.ac.jp/naid/120005770997
CiNii 論文 - 障害基礎年金制度成立の背景についての一考察――障害者団体や官僚は新制度誕生にどう関わったのか―― https://ci.nii.ac.jp/naid/130007596263

Y問題の歴史再考:学問基盤による視座の相違に着目して:田中秀和

田中秀和(2019)「Y問題の歴史再考:学問基盤による視座の相違に着目して」『立正社会福祉研究』21(35),1-14


いわゆる医師や家族,本人の同意無く,精神科病院のソーシャルワーカー(以下,PSW)が独断と偏見で精神科病院に入院させたこと.それによる人権侵害を被ったとYさんが裁判闘争をしたことについて,歴史的にあの問題はどうなったのかを改めて考察している.

この論文の主眼は,副題にあるとおり学問基盤によって捉え方が違うこと.その違いを社会福祉学がどう理解したらよいのかを考察している.社会福祉学と比較するのは,主に障害学(社会学)である.何が社会福祉学と障害学で違うのか,私自身,あまり区別無く読んでいるので,ピンとこなかったけれど,社会福祉学は,どちらかと言えば規範科学であり実践科学であるから,このY問題を契機に反省の上,PSWの取るべき行動を規範として明示することを持って前進させることが重要になる.しかし,障害学は当事者の視点で社会への批判や客観的な意味での事実を突きつけることを持って世に問う.だから反省することは大事であるが,それ以上に精神医療の持つ管理性や社会的防衛などをもっと明らかにして対抗する視点を打ち出すべきでは無いかと訴える.

確かに社会福祉学はどちらかと言えば支援者の立場(支援者の目指すべき方向とは…)にあり,当事者の本当のニーズと外れたところにあるかも知れないし,応え切れていないかも知れない.さらに社会学の立場に立てば,社会福祉学は当事者にとって数多ある社会サービスの一つに過ぎない.

そんなことをアレコレと考えさせられる内容となっている.

ちなみにこの論文は,障害学の立場で書かれたY問題の論文を念頭にそれに応答する形で書かれている.その中で入手が可能でよくまとまっている論文を紹介.当時のチラシとか会議録やPSW側の発言などもつぶさに拾いながら,PSWは組織を維持するために本当の意味でのYさんが訴えたかったことを形骸化したことを指弾している.


桐原尚之(2013)「「Y問題」の歴史 : PSWの倫理の糧にされていく過程」『Core Ethics : コア・エシックス』9,71-81,立命館大学大学院先端総合学術研究科


そして何より,1969年に起こったこの問題が今もなお論じられ,そして本質的にあまり変わっていない状況は,たぶん現場にいる人は感じるはずである.そして,その問題は,より巧妙にそして静かに存在し続けていることに気づくはずである.

プロフィール

kuma

Author:kuma
救護施設→知的障害児施設→通所介護施設(高齢者)→地域包括支援センター→救護施設と20年以上。これからも思考と体力で、働いていきます。

自分のサイトもあります。
kumaの学習ノート

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